昔、和歌山の釜中村に惣七という猟師がいました。ある日、惣七は日高峠に猪を撃ちに行きました。いつもは山の神様にお参りしてから山に入りますが、その日は山の入り口で猪を見つけたので、お供え物の野菜を落として、すぐに猪を追いかけました。
猪を探していると、急に空が暗くなり、冷たい雨が降ってきました。惣七は急いで山を下りましたが、途中で小さな炭焼き小屋を見つけました。中にはお婆さんが一人で火を焚いていました。お婆さんは惣七に煮物を出してくれました。惣七は不思議に思いながらも、ありがたく食べました。
しばらくすると、お婆さんは「薪を一つ入れると手が二倍、二つ入れると手が三倍」と言いながら、どんどん手を大きくしました。そして突然、惣七を強く叩きました。惣七はとても怖くなり、小屋から逃げ出しました。
山道を走っていると、一軒の家があり、中には若い娘がいました。娘は惣七に温かい汁を出してくれました。惣七はさっきの話を娘にしましたが、汁の中の野菜がさっきのお婆さんの煮物と同じだと気づきました。その時、娘の顔が変わり、「お婆さんの手と私の手、どっちが大きい?」と言って、手を大きくして惣七を捕まえようとしました。
惣七はまた逃げましたが、とうとう捕まって気を失いました。気がつくと、山の入り口の祠の前で倒れていました。お供え物の野菜が散らばっていました。惣七は、山の神様にお参りしなかったことを反省し、祠の前で手を合わせて感謝しました。