アメリカで陸軍創設250年記念の軍事パレードへ 混乱の懸念も
2025-06-14 08:01:11

軍事パレードは、14日、日本時間の15日午前7時半から始まる予定で首都ワシントンにあるリンカーン記念堂近くから、ホワイトハウスの南側までの大通りの、およそ1.4キロにわたって行われます。
沿道にはアメリカ国旗や陸軍の創設250年を祝う横断幕が掲げられているほか、周辺には高さ2メートル50センチほどのフェンスが設けられているところもあり、厳重な警備態勢がとられています。
パレードには、およそ6700人の兵士が参加し、陸軍の主力であるエイブラムス戦車をはじめ150ほどの軍用車両が登場する予定です。
アメリカのメディアによりますと、こうした大規模な軍事パレードが首都で行われるのは湾岸戦争後の1991年に当時のブッシュ政権下で行われて以来、34年ぶりだということです。
一方、パレードにかかる費用についてアメリカ陸軍は、最大で4500万ドル、日本円でおよそ65億円に上ると見積もっていて、多額の資金のむだづかいや政治権力の乱用だとの批判の声もあがっています。
この日はトランプ大統領の79歳の誕生日にもあたり、西部ロサンゼルスでトランプ政権の移民の一斉摘発に抗議するデモが続く中、「ノー・キングス」=「王はいらない」と題したトランプ政権に抗議するデモが全米2000か所以上で呼びかけられていて混乱も懸念されます。
パレード会場周辺では期待の声
ミシシッピ州から訪れている女性
「軍事パレードはよいことだと思います。子どもが空軍にいましたから。こういうパレードはもっと頻繁にやるべきだと思います。軍人は私たちの自由のために命をささげ、命を危険にさらしているのですから」
フロリダ州出身の退役軍人で、当日パレードを見に行くという男性
「軍のパレードは多くの国がやっていますし、私たちの部隊を支持する気持ちを示すことはすばらしいことです。パレードを決めたトランプ大統領の判断はよいことです。これによりみな誇りに思うことができ、国内の団結が深まると思います」
カリフォルニア州から家族4人で軍事パレードを見るために来たという男性
「国を祝うのによい方法だから非常に楽しみです」とした上でロサンゼルスで抗議デモが続いていることなどを念頭に「緊張感が漂っていて、パレードのタイミングについては疑問に思う部分もあります。必ずしもトランプ大統領の誕生日を祝いたいのではなく、世界で最もすばらしいアメリカ合衆国を祝いたいという気持ちです」
「権力の乱用だ」など反対の声も
今回の軍事パレードをめぐっては、「権力の乱用だ」とか「カネのむだづかいだ」などと反対の声もあがっています。
今月10日に首都ワシントンで行われた、トランプ大統領の移民政策などに抗議する集会にはおよそ200人が集まりました。
参加者は「トランプ政権は独裁的だ」などと書かれたプラカードを手に移民の一斉摘発やパレスチナ・ガザ地区をめぐるトランプ政権の対応に抗議する声をあげていました。
ロサンゼルスで混乱を鎮静化させるため、州兵や海兵隊が派遣されるなかで、ワシントンで軍事パレードが予定されていることについて集会に参加した18歳の女性
「権力のひどい乱用だと思います。しかし、彼にとってはもはやこれが当たり前になっています」
20歳の女性
「トランプ大統領の誕生日のパレードに軍の力を使うことは不愉快です。アメリカという国はトランプ氏を中心に回っているわけではありません。彼は王ではなく大統領です。パレードの費用は低所得者や支援を必要としている人たちのために使われるべきです」
26歳の男性
「トランプ大統領の政治的な思想を軍と結びつけることは誤ったメッセージを発することになるので今回の軍事パレードには反対です」
一方、ワシントンでは今月6日、トランプ政権が退役軍人にあてる予算を削減しないことなどを求める集会が行われ、参加した退役軍人からは今回の軍事パレードに反対する声が相次いでいました。
バージニア州の退役軍人の女性
「軍人や退役軍人に敬意を示す方法はパレード以外にもたくさんあると思います」
ノースカロライナ州から来た退役軍人の男性
「トランプ大統領自身は従軍したことはありません。多額の費用をむだにしていてパレードに賛成することはできません」
世論調査 軍事パレード実施に賛成40% 反対29%
シカゴ大学とAP通信が、今月5日から9日にかけて全米で1100人以上を対象に実施した世論調査では、今回の軍事パレードの実施そのものについて、賛成が40%、反対が29%となっています。
政党支持別でみると与党・共和党の支持者は、67%が賛成と回答した一方、野党・民主党の支持者は、賛成と回答した人は20%となっています。
一方、「政府資金のよい使い方だと思うか」という質問に対し、全体の60%が「そう思わない」と回答しています。
また、アメリカの公共宗教研究所が先月行った世論調査では、最大で4500万ドル、日本円でおよそ65億円かかるとされる資金で軍事パレードを実施することについて、全体の76%が反対する考えを示したということです。
中でも民主党支持者に限っては、93%が反対していて、トランプ大統領の支持者でも賛成は46%、反対は52%と意見は分かれています。
軍事パレードのねらいは
軍事パレードのねらいについてトランプ政権にも影響力がある保守系のシンクタンク「ヘリテージ財団」で、外交・安全保障分野を担当するジェームズ・カラファノ氏は「軍事パレードには一般的に2つの目的がある。1つ目は、軍事力や体制の力と権威を誇示することだ。2つ目は愛国主義で、国に仕える人々への誇りや感謝を示すためだ」と指摘しました。
そのうえで「今回のパレードは中国のように誰かを威嚇したり怖がらせたりするためではなくアメリカに仕えることを誇りに思うことを示すためのものだ。世界の誰かに対してではなくアメリカ国民に向けて行われるものだ」と述べ、対外的に軍事力を誇示するのではなく、アメリカ国内に向けて軍をたたえる姿勢を示すのがトランプ大統領のねらいだという見方を示しました。
一方、リベラル系のシンクタンク「アメリカ進歩センター」で安全保障分野を担当するアリソン・マクマナス氏は「トランプ氏自身が軍事力を独占的に行使できる強い指導者だというイメージを演出するための手段だ」との見方を示しました。
そのうえでロサンゼルスで混乱が続いているほか、中東で緊張が高まるさなかに行われることについて、「アメリカの人々は安全と安定の象徴として軍を見ているが、今、目の当たりにしているのは混乱と不安定さだ。軍事パレードは秩序に乏しい行動をとる大統領への恐怖心を増幅させることにつながるのではないか」と懸念を示しています。
また、大規模な軍事パレードはロシアのような専制的な国で行われることが多いと指摘したうえで、「トランプ大統領が誕生日に行うパレードは民主的な愛国心よりも軍事的な独裁者との類似点を連想させることになる」と述べ民主主義国家としてのイメージや各国からの信頼を損なうおそれがあるという考えを示しました。
米軍がパレードで使用の軍用機を公開
軍事パレードを前に、アメリカ軍は12日、首都ワシントン近郊にあるアンドリュース基地の中をNHKを含む一部のメディアに公開し、パレードの意義を強調しました。
3種類の軍用ヘリコプターの撮影が許可され、このうち中東などの軍事作戦で使用されてきたことで知られる軍用ヘリコプター「ブラックホーク」は16機が軍事パレードの当日、ワシントンの上空を並んで飛行するということです。
ブラックホークのパイロットの女性はNHKの取材に対し、軍事パレードに参加することについて、「非常に珍しい経験だ。多くの人が参加できるわけではないので、自分は選ばれて幸運だと考えている」と話していました。
このほか、軍事パレードに参加する予定の攻撃ヘリコプター「アパッチ」や大型の輸送ヘリコプター「チヌーク」の撮影も許可され、パイロットらがメディア関係者に向けて今回のパレードに参加する意気込みを話していました。
アメリカ陸軍で広報を担当する、パトリック・ヒューステッド中佐は今回のパレードについてNHKの取材に対し、「陸軍にとっては非常に重要だ。アメリカへの奉仕と犠牲の250年を祝うことになるからだ。多くの装甲車や航空機、それに行進する兵士らを披露するすばらしいものになるだろう」と述べ、意義を強調しました。
アメリカ陸軍創設250年のパレードは
パレードは、現地時間14日午後6時半、日本時間15日午前7時半から始まる予定で、観光名所のリンカーン記念堂の北側から、ホワイトハウスの南側までおよそ1400メートルにわたり行われます。
陸軍によりますと、パレードには、主力戦車である「エイブラムス」をはじめ150ほどの車両や、ヘリコプターの「ブラックホーク」など航空機50機ほど、それに、およそ6700人の兵士が参加する予定です。
ロシアの侵攻を受けるウクライナに対し、アメリカが供与してきた高機動ロケット砲システム=「ハイマース」も登場するほか、パレードの最後には、パラシュート部隊による実演も計画されています。